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「判った。おばあちゃんに伝えておくね」
きっと、いいや絶対に、ハルも喜ぶだろう。秋鹿は無意識に、机の上の腕時計を手に取った。夏紀から誕生日祝いに贈られたこれも宝物のひとつとして、スノードームと硝子の猫と並べて、ずっと飾っている。
「……あれ、」
腕時計の下に紙きれを敷いていたはずだが、それが無くなっている。昨日まではあったような気がするが、定かではない。
「どうしたの?」
「ううん、何でもない」
机の下も覗き込んでみるが、見つからない。間違えて捨ててしまったのだろうか。
「秋鹿、聞いてるの?」
「あ、うん。聞いてるよ」
秋鹿は姿勢を正して返事をする。失くしものをしてしまったとうっかり夏紀に云えば、不注意だと怒られかねなかった。
その後十分ほど話して、電話は切れた。秋鹿は腕時計を元に戻して、頸をひねる。そもそもあの紙片が何だったのか……何が書かれていたのか、さっぱり憶い出せない。どうして腕時計の下に敷いたままにしていたのだろう。重要なものであったような、そうでもなかったような、それなのに何故、こんなに妙に胸にひっかかるのだろう。
「……変なの」
秋鹿は呟き、ハルに夏紀のことを伝える為に、立ち上がって部屋を出た。
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