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「秋も秋の食材から作ったし、やっぱり冬らしいものから作りたいな。南瓜とか、林檎とか……。だったらアップルパイかなあ……」
そう云ってから、以前ハルがアップルパイは作らないことにしていると云っていたのを憶い出した。あの時、ハルはとても深刻な表情をしていた。
秋鹿は気附かれぬよう目線だけを動かして、ハルの横顔を窺い見た。ハルは何か思いつめたように、固い表情をしていた。やはりハルにはアップルパイは禁句なのだと、秋鹿は思った。
「チョコレートも……良いと思うんだ。寒くなると、チョコレートが食べたくなるでしょう。バレンタインも、あるし……」
「そうですね」
ハルはわずかに口元を緩めて、頷いた。
「あとは生姜とか……。躰が温まるし」
「良いですね。スパイスを効かせたケーキと云うのも、良いかも識れません」
「雪みたいに真っ白なケーキとか」
「素敵だわ。また色々と試してみましょう」
「うん。愉しみ」
口では愉しそうにしながら、お互いどこか無理をしているようなぎこちなさがあった。夕食の間も、二人は夏紀のことは一言も触れなかった。食べ終えると、秋鹿は自室に入った。小説の続きを読もうと本を開くが、集中出来ない。
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