746人が本棚に入れています
本棚に追加
三連休最後の日も、秋鹿は朝からハルの店を手伝った。
二人でケーキを作る。ハルは本当にいつもと何も変わらなかった。昨日、夏紀と一緒に此処で朝食を取ったのが、秋鹿には嘘みたいだった。
夏紀の躰の具合は大丈夫だろうか。昨夜、無事に家に着いたか訊ねるメールを送ったが、返事が来ない。寝込んでいなければ良いけれどと、秋鹿は小麦粉を振るいながら案じた。
気になることは、まだあった。祖父のことだ。ハルが祖父のことを憶えていないといった夏紀の言葉は、事実なのだろうか。ハルが隠しごとをするなど、信じられない。しかしだからこそ、それが真実だとしたら、とても重大な理由があるに違いない。
ケーキをオーブンに入れると、「秋鹿」と、ハルが秋鹿に呼びかけた。
「なあに、おばあちゃん」
秋鹿は使い終わった調理道具を流し台に運んだ。スポンジを手に取り、洗いはじめる。
「何か私に、訊きたいことがあるんじゃないですか、」
「え……?」
秋鹿はハルを振り向いた。ハルは微笑んで、ミトンを外した。
「昨日、夏紀が私に云ったことが、気になっているんじゃないですか? 違いますか、秋鹿」
心を見透かされ、秋鹿は視線を床に落とした。だがわざわざハルがそう云ってくると云うことは、訊ねても良いと云うことなのかも識れなかった。ハル自身も胸の内を、さらけだしたいのかも識れない。
最初のコメントを投稿しよう!