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「けれど夏紀には、私が薄情な人間だと感じられたのでしょう。無理もありません。あの子にねだられても、私は父親の話を満足にしてあげることが出来ませんでしたから。いつからか、父親のことを私に訊ねてくることもなくなりました。あの子には、ずいぶん淋しい思いをさせてしまいました……」
重苦しげな口調で、眉間に深い皺を刻む。惻々と後悔が伝わってきて、秋鹿も胸が締めつけられた。
「本当に、どうしようもないこと……だったんだね」
ハルは頷いた。
「ええ、どうしようもなかった。けれど、もっとこのことについて、夏紀と早く向き合うべきでした。あの子が淋しがっていると、傷附いていると識りながら、可怕くて、あの人のことを話すことが出来なかった。夏紀が私を責めるのは当然です。私があの子よりも、あやかしのみんなや、この店のことを優先したと云うのも、無意識の内でしたけれども、慥かにそうだったと思うわ。私は夏紀に、長い間ずっと真実を隠してきた。だからあの子ときちんと向き合うことを、避けていたんです」
「その真実って、何なの、おばあちゃん」
ハルは両手で顔を覆い、頭を振った。
「ごめんなさい、秋鹿。どうしても打ち明ける勇気が足りません。秋鹿、あなたのおばあちゃんは、本当はどうしようもない臆病者なのよ」
「おばあちゃん……」
これまで見たことのない祖母の姿だった。秋鹿はほんの少しでも自分の元気を分け与えられるようにと、ハルの肩先に手を当てた。
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