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「おばあちゃんが、おじいちゃんのことを忘れてしまったのが本当だとしても、今でもおじいちゃんを大切に思う気持ちがあるんだって判ったら、母さん、きっと、すごく嬉しいと思うよ」  (おも)い出を共有することは叶わなくても、愛おしく思う気持ちは、共有できる。それは二人にとって、さいわいのことではないだろうか。  ハルは顔から手を離し、秋鹿を見た。流れた(なみだ)が頬で光った。 「ありがとう、秋鹿」  微笑むと、指の先で頬を拭った。 「夏紀の云うとおり、私は酷い母親です。それでも私は、自分がした選択を、誤りだったとは思っていません。だからこそ、今こうしてあなたと一緒にいられるのですし」 「え?」  秋鹿は目を瞬かせるが、ハルはそれには答えず、 「秋鹿にも、夏紀にも、必ず真実を話します。約束します。だから少しだけ、もう少しだけ、私の覚悟が定まるまで、待っていてくれませんか?」 「うん、判った。いつまででも、僕は待ってるから」  ハルは必ず約束を守ってくれる。ハルの心根の(つよ)さを、秋鹿は()っている。だから信じて待とうと、秋鹿は思った。  ありがとうと、ハルはもう一度云って、 「さあ、洗いものを片附けて、お昼ご飯にしましょう。今日も忙しくなるかも識れませんね」 「うん」  秋鹿は答えて、腕まくりをしなおした。
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