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「はいはい。どうでも良いけど、早いところ用事を済ませてねえ」
扉の閉まる音がして、眼鏡のあやかしは部屋を出ていったようだった。室内には父と息子二人きりの緊張感が漂った。おそらく見張りのあやかしたちは、外の廊下で待機しているのだろう。
いくら待っても父親から話しかけてくることはなかった。こちらから切り出すのは悔しかったが、ならば深く切り込むまでだと、柊は口を開いた。
「どうして今になって俺を自分の元へ読んだんだ」
返事はすぐには無い。相手の姿が見えないからだろうか、柊は自分の声が何も無い暗闇に吸い込まれていくような感覚をおぼえた。自分は今、憎むべき相手と、真実対峙しているのだろうか。
ひえびえとした空気に、柊は思わず身顫いした。ようやく相手は答えた。
「お前を此処へ呼んだのは、玄帝の為にその力を使わせる為だ。先にそう告げさせたはずだが」
愚かしい問いをありありと蔑む口振りだった。柊はおのれに冷静さを強いた。感情を剥き出しにすれば、負ける。
「──それだけか、」
「無論だ。他にどんな目的があると云うんだ」
塞がれた双眸で、柊は父を見据えようとする。だがまるで自分が見当違いの方角を向いているような気がした。
柊は拳を勁く握った。切っ先が心の臓まで達するようにするには、ためらうことなく刃を振り下ろさなければならない。
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