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 夏紀からの返事は、まだ来てはいなかった。電話をかけても、何故(なぜ)か繋がらない。もしかしたらわざとそうしてるのではないかと、思わずにはいられなかった。夏紀は仕事用にもうひとつ携帯電話を持っている。秋鹿やハルのことを避ける為に、私用の電話の電源を切っておくことは可能だった。  三人で一緒に正月を過ごせるように、本当になるのかな。秋鹿は不安だった。ハルも表面的には普段と変わりないが、やはり少し気落ちしているように思える。このまま皆が哀しい気持ちでいては、(たの)しい正月を迎えることは難しいだろう。  もうすぐテストがある。以前よりも良い結果を出せば、夏紀は喜んでくれるだろうか。此処(ここ)を離れろとは、もう云わないかも()れない。特に苦手な数学を頑張れば、少しは安心してくれるかも識れない。秋鹿への心配がちょっとでも減ったら、心にゆとりが出来て、ハルへの態度も変わるかも識れない。  秋鹿は授業で判らないことがあったら、そのままにはせず、先生に()きにいくようにした。昼休みに職員室へ行くのはとても緊張したけれど、先生は(いや)がることなく、むしろ歓迎して、教えてくれた。  夜遅くまで宿題と、その日の授業の復習をする。朝になって(ねむ)たい目をこすりながら学校へ行き、放課後はハルの店の手伝いをする。夏紀からの連絡はいつまで経っても来ない。不安を打ち消すように、秋鹿は目の前のことに懸命に取り組んだ。
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