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 そんな風に過ごしていると、瞬く間に一週間が過ぎてしまう。日曜日の午前中に、秋鹿は借りていた本を返しに図書館へ行った。夏紀に叱られた時に読んでいたファンタジー小説だ。  結局、あれから続きを読むことなく、返却期限が来てしまった。貸し出しの延長も可能だが、そのまま返した。他にも読みたい本がたくさんあるけれども、今は駄目だと、我慢する。もうすぐテストだし、夏紀に怒られたばかりだ。  何も借りることなく図書館を出た。入り口の前で高校生らしい少年とすれ違い、どきりとする。()らない人だったのに、感じの悪い人でもなかったのに、何故(なぜ)胸が鳴ったのか、自分でも理由が判らず、秋鹿は(くび)を捻った。  商店街へと向かう。ハルに買い物を頼まれていた。のんびり歩いていたら、ケーキ作りを手伝えなくなってしまう。急ぎ足になった。すると、 「……か、あ……か、秋鹿……、」  名前を呼ぶ微かな声が聞こえた。秋鹿は足を止め、振り返った。だが知り合いの姿は見当たらない。聞き間違いだろうか。 「気の所為(せい)……かな、」  気にすることはないと、再び先を急ごうとする。しかしまた、 「……あい……か……あ……、秋鹿、秋鹿……、」  やはり誰かが自分を呼んでいるようだ。秋鹿は立ち止まり、 「誰……ですか……?」  こわごわと、声に出して(たず)ねてみる。耳を澄ませても、返事は無い。それらしい人物もいない。
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