第三章 サクラの花びら抱きしめて…

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「今日この場所に来るべきか僕は悩みました。もしあなたが来て、弟のことを知ったら辛い思いをさせてしまうだけになるのではないかと。でも、弟は、あなたが来ようと来まいと必ずこの場所に来たでしょう。弟はそんなヤツです。だから、そんな弟の強い思いに応えるために、僕はここへやって来ました。ただ、本当のことを言えば、あなたがこの場所に来ないことを願っていました。弟の思いは僕がここへ来るだけで達成されると思ったからです。それなのに、あなたはいらっしゃった。さすが弟が大好きになった人です。本当にありがとう。弟に代わってお礼申し上げます。でも、どうかその思いは今日で終わりにしてください。今となっては弟もそう願っているはずです」 「無理です。できません。私は高志君が私に約束してくれた思いの深さに、つい先日気づきました。だから今日ここにもし高志君が来てくれたら、私は高志君と思いをひとつにすると決めたんです。そして、高志君は約束どおり来てくれました」  寧々は高志の写真とブローチを胸に抱きしめて言った。 「だから、今日で終わりになんてできません」 「辛いですね…。今は無理かもしれませんが、いつか時間が解決してくれると思います。あたのためにもそうあってほしいと思います」  寧々には亮二の言葉がどこか遠くのほうから聞こえてくるようだった。 「お兄さん、お願いがあります」  そう言うと、寧々はバッグの中から封筒を取り出した。 「この中に桜の花びらが入っています。それを高志君の仏壇に供えていただけませんか」 「わかりました」  自分はまだ公園に残るからと言って、そこで亮二とは別れた。寧々には一人になる時間が必要だった。  先ほど高志の兄は今日で終わりにしてくださいと言った。確かに高志がいなくなった今、自分の恋はここで終わりにすべきなのかもしれない。でも、さっき高志の自分に対する思いを聞いて、高志との本当の恋は今日から始まるのだと寧々は思ったのだ。高志が10年間私のことを想い続けてくれたように、これからの10年間は私が高志を想い続ける。そこで初めて二人の恋は成就する。恋が終わる。 「高志君、それでいいよね。その後は私も新しい恋をするかもしれないけど、その時は許してね」
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