第三章 サクラの花びら抱きしめて…

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『やっぱり来ない』  心の中で帰る準備を始めた時だった。一人の男性が美しい大気の中をゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。寧々はじっとその人を見つめた。その姿が次第に大きくなってくるにつれ、顔がはっきりわかるようになってきた。人生で一番成長する時期に会っていなかったのだから、それが高志であるとは断定できなかった。でも、微かに面影があるようにも見える…。『高志君…』と心の中で叫ぶ。先方の男性も寧々をしっかりととらえた。薄い笑顔を見せ、軽く頭を下げた。 「どうもお待たせしました。浜口寧々さんですよね」 「ええ、そうです」 「やっぱり来てくれたんですね」  まっすぐ寧々を見つめながら言った。けれど、そこに笑顔はなかった。 「高志君…?」  寧々は必死の思いで言った。 「ごめんなさい。高志の兄の亮二と言います」  その瞬間、寧々は全身の力が抜けるように感じた。やはり、自分の思い込みだったのだ。 「高志君は?」 「二か月前に癌で亡くなりました」 「そんな…」  喉の奥からかろうじて出たかすれた声。寧々は両手で顔を覆った。 「大丈夫ですか」 「………」  言葉にならなかった。胸の奥が痛むような音がする。 「辛い思いをさせてごめんなさい。お話ししたいことがあるので、近くの公園まで一緒に来ていただけますか?」  学校の近くに公園があることは寧々も知っていた。というか、寧々と高志もよく遊びに行っていた場所だ。二人とも無言で移動する。 「ここでいいですか?」  亮二がベンチを指す。 「はい」  横に座った亮二が鞄の中から封筒を取り出した。 「この中に弟の写真が入っています。約二年前のまだ元気だった頃に撮ったものです」  封筒を受け取った寧々は震える手で写真を取り出した。そこには日焼けしたたくましい姿の高志が写っていた。やんちゃな顔をしていた小学生の男の子が、きりっとした凛々しんイケメンの男性になっていた。 「高志君、かっこよくなってる…」 「そう言っていただけると弟も喜ぶと思います。その頃はまさか弟が癌になるなんて誰も想像していませんでした…」
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