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管理棟に戻った3701号は、改めて佐藤の遺体を確認した。遺族がその顔を見ることはできないだろうと考え、写真を撮った。作業着のポケットも調べた。
腰のポケットから財布を見つけて中身を確認した。電子マネーとクレジットカード、マイナンバーカードなどがあった。放射性物質に汚染されたそれも処分されるに大概ないので写真に収めた。胸のポケットには黒い表紙の手帳があった。記録メディアといえばタブレットが相場の時代になっても彼が紙の手帳を使っていたことが不思議だった。
ページをめくる。右肩上がりの癖の強い文字があった。
―――核反応が止められない。俺はもうだめだ。裕美子、仁を頼む―――
タブレットに記録してくれたなら、データを転送してやれるのに……。彼は技術者のくせに、どうして……。そう考え、自分の過ちに気づいた。データでは、誰が書いたものか分からない。癖の強い文字に、家族は大切な夫や大好きな父親の姿を重ね見るだろう、と考えなおした。
「おまたせ」
ほどなく戻った3707号が陽気な声を発した。
「いや……」
3701号は自分の声を重苦しい音に感じながら遺体を抱え上げる。水分を失った遺体は動かすとかさかさと音を立て、砕け散るのではないかと感じた。軽い遺体を袋に詰めるのは簡単で、それが生物に残される命の重さだと見せつけられたようで切なかった。
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