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3701号は調査機器を入れたバックを背負い、液体金属ナトリウムを取り除く施設の調査に向かった。100メートルほどの距離があった。
施設の外壁は高熱で炭化していた。至る所が崩れて向こう側が見える。放置されていても動物や昆虫がいないのは、彼らが本能的に放射線を避けているからかもしれないと思った。ただ、植物は容赦なく廃墟にはびこり、成長を遂げていた。
外壁を伝う蔦を引きはがして穴の多いもろそうな部分を蹴ると、コンクリート製の壁も崩れて楽に通れる通路が出来た。
内部に踏み込んで放射線量を測定する。測定器の針は人間の致死レベルに相当する値で小刻みに震えた。外部より放射線量は低い。廃墟の中に核燃料は残っていないということだ。
「水酸化ナトリウムの中に潜らなくて済みそうだ」
仲間に連絡したつもりだが返事はなかった。
こっちの声も届いていないだろう……。可視光通信も電波も届かない不安を覚えながら更に奥に進み、核燃料棒の洗浄装置を捜した。そこに毒性のある水酸化ナトリウムが溜まっているはずだ。
黒焦げのそれは、すぐに見つかった。コンクリートで囲われたやや低い場所だ。ヘッドライトを点灯させて残骸周辺を見下ろした。水酸化ナトリウムの固形物も液状化したものも見当たらない。
核爆発、あるいは火災の影響で基礎のどこかに亀裂が生じていて、流れ込んだ雨で水溶化したものが徐々に地下に浸み込んだのだろう。土壌や地下水は汚染されている可能性が高いが、それは今回の調査対象外だ。
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