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肌とTシャツの間をだらだらと流れる汗の感覚ほど不快なものはない。
暑いのにも限度がある。少なくとも俺はそう思っている。そんなことを思いながら、クーラーの効いた休憩室に飛び込んだ。
八月十五日。世間では夏休みである。或いはお盆の中日ということで、仕事をしている人はほとんどいない。
八月十五日というだけでも、普通の暑さなら十分に伝わることだろう。しかしこの暑さは尋常ではなかった。
炎天下の太陽熱だけではないのである。幾重にも重ねた耐熱耐火煉瓦を通してでさえ、路面温度は五十度を越えているというコークス炉の上でもあるのだ。足下の炉内では二千度近くになっている。
路面から一メートル上での測定でも、四十度を越えることがしばしばある。正に上下からの灼熱地獄と言える。
そんな環境では二十分が限度だった。結局二十分間仕事をして休憩室に飛び込んだのである。
ヘルメットの下に頬かむりをしていたオレンジ色の防炎タオルは、風呂場でタオルを搾るのと変わらないほどになっている。
「山田さん、この仕事が終わってしまったらどうするのですか?」
俺は同僚の山田さんに声をかけた。
山田さんは厚手の上衣を脱ぎ、その下のTシャツも脱いで汗を絞っている。
何故この暑い中で厚手の上衣を着ているのか? 薄手の作業着では万が一の時、火傷をしかねないということだった。それほど過酷な環境なのである。『RESCUE』と表記された防炎タオルを支給されたことにも頷ける。
「松田さん、俺は福島に行こうと思うんだ」
山田さんは絞ったTシャツを椅子の背に掛けながら答えてくれた。
「え、福島ですか? どういうことですか?」
関西から福島はあまりにも遠く、そんなところに何をしにいくのかと素直に疑問を感じたのだ。
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