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第3話 灼熱地獄 その3
「リンクも行くと言っていたので、三人一緒だな」
リンクというのはモンゴル人である。外国人特有な発音に癖はあるものの、日常会話に不自由はなかった。外見は元横綱の朝青龍にそっくりだった。
「知り合いからの情報だと、宿舎は無料で一人一部屋、食事は朝夕千円程度で付いているってことなんだ」
「でも、その条件だと賃金が安いんじゃないですか?」
「いや、会社によって違いはあるけど、だいたい日給にして一万五千円から一万六千円位が今の相場らしいよ」
「え、そんなに貰えるの?」
「これでも少なくなった方で、以前なら二万円以上はざらにあったらしいよ」
それを聞いて俺は愕然とした。今の過酷なコークス炉でのアルバイト的仕事は、日給にして約八千円である。今の約二倍に相当する。
五十を大幅に越えた求職者にとって、今住んでいる地域では有り得ないことだった。月給二十万円程度の求人でさえ、何十社も応募しながら不採用となっている。俄然除染作業員というものに興味を持ってしまった。いや、もう行くしかないとさえ思い定めていた。
「福島や郡山や二本松、飯館や田村や山木屋、他に南相馬などもあるのだけれど、松田さんは車があるから、休みになったらどこにでも一緒に遊びにいけるね」
山田さんは車の免許がないのである。元々なかったのか、それとも停止になったのかは定かではない。
「福島で何をして遊ぶのですか?」
「郡山に行けば何でもあるよ。なんせ福島で一番の繁華街だからね。ソープでもヘルスでも選り取りみどりだよ」
山田さん、そこまでは言わなくていいです。俺も妻子ある身なので、そこまで調子を合わせることはできません。でも楽しそうな雰囲気だけは伝わります。
結局俺は
「山田さん、福島に一緒に行きましょう」と答えていた。
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