第7話  炉上生活者 その2

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第7話  炉上生活者 その2

 一方怪人の尾田君は、三十過ぎくらいの年齢で独身だった。風貌も性格も怪人と呼ぶに相応しい。身長は百八十センチ位で、手足が長く細身ながら筋肉質な体型をしている。体脂肪率の極めて低い、いわゆる細マッチョ。頭は剃っていてツルツルで、顔も小さく宇宙人のようなイメージがある。  いつも仕事で使う直径約二十センチ、長さ約二十メートルの黒い蛇腹状ホースと、それに使う長さ約一メートル半のステンレス製ノズル二本をそれぞれ片手に軽々と持って運んでいた。  五十を大幅に過ぎた俺では、一本を運ぶのでさえも精一杯なのに。  それから尾田くんは自転車通勤をしているのだが、たまに自動車を追い抜く勢いで走っていることもあるらしい。  とは言え、見た目はちょっと怖そうに感じるものの、少し吃りながら意外とお喋りでお茶目なところもある。  菓子パンが好きで、帰り道に近くのスーパーで十個も買って、晩飯代わりにその日の内に全部食べてしまうことも結構あるらしい。  新聞配達とこの現場を掛け持ちしていて、朝配達を済ませた後に意味もなく町の中を散歩してから来るのだという。  そしてその時よく警察官から職務質問受けると不思議そうに言っていた。 「当たり前だ」とつい突っ込みたくなる。  風貌といい、時間帯といい、挙動といい、誰が見ても不審者そのものにしか見えないはずだ。  要するに怪人なのである。  モンゴル人のリンクは、俺がこの仕事を始める前日に現場見学をした時、仕事の仕方というか要するにバキュームノズルの扱い方を丁寧に教えてくれた師匠だった。黙っていると一見無愛想に見える風貌と違って、とても気さくで親切なのである。  しかし、普段は癖のある日本語で冗談を言って場を和ませてくれているのだが、たまに鬱の時があって、その時はあまり関わりたくないタイプでもあった。  現在はこの地域に日本人の彼女がいて、意外と尻に敷かれているらしいとの噂だ。
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