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大きな応接間に通された。
お手伝いさんらしい格好の女性が二人、しおりを値踏みする様に横目で見ながら、紅茶を出して出て行った。
「お気になさらずに。どの様な方か興味があるのです。」
渡瀬はそう話してから、紅茶を一口飲んで、改めて、と続けた。
「私は渡瀬 誠 (わたせ まこと)と申します。お祖父様の個人弁護士をしております。」
「弁護士?」
「はい。個人財産の管理、この家の管理、人を雇う際の是非、この家に関する総ての責任者、と考えて頂ければ分かりやすいかと。」
「さっきの、侍従長は?」
「侍従長はお金の管理です。ここで働く方にお給料を計算して渡します。生活費や、食費など、この家の総ての経理を担当しています。一人で受け持っては信用が出来ないでしょう?それぞれに見張っているというところです。」
「はぁ…。」
見張らせる、それをさせているお祖父さんを少し、嫌に感じていた。
「さて、複雑なお話です。お父様は佐伯 孝志(さえき たかし)様と言います。お母様はさゆり様です。」
テーブルの上に1枚の写真が置かれた。
手に取ると、笑顔の…私に似た女性が、男性と二人で写っていた。
「同じ大学で出会い、お付き合いされ、卒業と同時にご結婚されました。
お祖父様は息子である孝志さんに、3名ほど、奥様候補をご用意しておられました。
それに気付いていたのでしょう。卒業すると直ぐに籍を入れられたのです。
この家にさゆり様をお招きになり、暮らし始めました。
が、旦那様はお許しではありませんでした。
さゆり様の扱いは、お手伝いだったと聞いております。」
「ひどっ!」
「孝志様も家を出る事を考えましたが、いつか許して下さると、さゆり様が仰っていたそうです。
孝志様も、お仕事を頑張る事で認めてもらおうと必死だったそうです。
2年が過ぎて、さゆり様がお子を授かりました。
旦那様はその子が無事、産まれたら、息子の妻としては認めると仰って、お子様が産まれる日をご夫婦は楽しみにしていたそうです。
旦那様は当時、社運をかけた大きな取引を控えていらして、海外に行く予定がございました。その矢先、病でお倒れになったのです。」
「心の臓?」
「はい。幸い、大事には至りませんでしたが、飛行機に乗るなど無理だと、医師に止められました。孝志様は自ら代わりに行くと申し出たそうです。」
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