佐伯家

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「大きい家だもんね、そうだよね。ハリウッドセレブだって警備員とかボディーガードとか家庭教師とか、家に住まわせてしまうんだよね?」 ポツリと言うと、実知が続けた。 「申し訳ありませんでした。私を人数に入れておりませんでした。それと、門の横に警備員室はございます。常に最低、二人はそこにおります。」 「はぁ~本物のセレブかぁ…。」 「旦那様が会長をされていた頃は、もっと警備も厳重で人も多かったとお聞きしております。随分、静かになったと、鈴木さんがよく言っています。」 「ああ、会社は誰かに任せたとか言ってたね。」 「はい、佐伯コーポレーションをご存知ないですか?」 「うん、全く…。」 「…………。失礼ですが、今までどの様な生活を?」 「テレビは置いてなかった。邪魔だし見る暇もないし。起きてご飯食べて、仕事行って帰ってご飯食べて、働いて帰って寝る。繰り返し。……働いて?」 自分で話している事に違和感を感じた。 「お嬢様?」 「ああ、ごめん、それで、お祖父さんは何してた人でどんな人?」 「初めは小さな建築会社でしたが、今は不動産からスーパー、学校や病院経営まで、多岐に渡る総合商社です。5年ほど前に会社からは綺麗に身を引かれて、今はこの家でゆったりとお過ごしです。時々会社の方やお偉い方達が尋ねてお見えですが、アドバイス位はされているのかもしれませんね?私はお見かけした程度ですが、怖い感じでちょっと近寄り難い雰囲気でした。」 「お祖父さんは怖いのかぁ…。」 呟くと実知は時計を見て慌てた。 「すみません、お夕食をお運びします。」 「ああ、慌てないで。話に付き合ってもらったのは私なんだから。怒られたりする?」 部屋のドアを開ける前に振り返って、実知は、 「少し…。」 と、笑って答えた。 「私に捕まってたって言って?ありがとう、実知さん。」 「いいえ、すぐお持ちします。」 実知が出て行くと途端に部屋は静かになった。 静か過ぎて落ち着かない。 「帰って、夕ご飯食べて、働いて…。働いて?しおりは、夜学でしょ?しおは……しおは習い事に通っていた。何で働いてなんて言ったんだろう?」 誰よりも自分が一番、謎だった。
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