佐伯家

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「おはようございます。お嬢様、お目覚め下さい。」 「ん?ん~~ん、しお……何言って…る、の?」 目の前に実知の顔があって、我に返った。 「おはようございます。昨夜はよくお眠りになられましたか?」 「あんまり…。ベッドが広過ぎて…。洗面台、使っても良いのかな?」 起き上がり部屋を歩きながら聞くと、実知は不思議そうな顔で答えた。 「この家でお嬢様がされていけない事などございません。ここはお嬢様のお部屋ですし、ご自由にお使い下さい。」 言われて洗面台に行き顔を洗う。 戻ると実知はベッドを綺麗にして、クローゼットから何着か服を出していた。 「旦那様に初めてお会いするのでございますから、どれがいいでしょうか?」 「昨日の服は?私が着てた…。」 「お洗濯に回しましたが。」 キョトンとした顔で実知は答えた。 ベッドの下に置いた鞄を開けて、自分の服を出した。 アパートの大家さんが入院中に持って来てくれたものだ。 「私んとこに渡瀬て男が来て、アパート引き払うって。一人は意識不明だし、もう一人はなんか実のお祖父さんが見つかったから、もう住まないて言われてさ。事故だって警察から聞いてはいたの。目が覚めたって聞いたから、どっちの服かはわからないんだけど寝巻きとか持って来たわ。明日、引き払うって、本当かい?」 大家さんは親切に顔を出してくれた。 引き払いたくはないが、いつ目がさめるか分からないしお…と、お祖父さんの家に行く私、アパートは家賃が勿体ない。 「あの、お願いがあるのですが。」 その日のうちに、渡瀬が部屋に入る前に、大事な物をメモして大家さんにその日の夜、届けてもらった。 洋服はなんでもいいので、ズボン、スカート、ワンピース、長袖シャツ、1着ずつでも入れて欲しいと頼んだ。 鞄を開けて半袖のワンピースを出して着替えた。 「お嬢様、こちらをお着になりませんか?」 「ううん、今の私を見てもらわないと…。」 「この部屋の物は、全てお嬢様の物ですのに…。」 「この家で私は何をしてもいいんでしょ?」 「はい……。」 「じゃあ、今からこの部屋で二人の時は、しおって呼んで?お嬢様は緊張するわ。」 笑って言うと、実知も笑いながら答えた。 「かしこまりました。しお様。」 「しおでいいのに。」 「…しお。」 友達が出来た気がした。
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