佐伯家

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「嘘…でしょ?」 その問いに、静かに渡瀬は首を振った。 「事故、と聞いた時は私が見つけるのが遅かったかと思いましたが、あくまで事故だったと聞き、安心しました。幸いにも二人は良く似ていた。パッと見、知らない人間なら悩むほどです。 まして、あの状態で眠っているしおり様のお顔を見ても、判断は難しいでしょう。」 「何でそれ、病院で言わないの?わざわざ嘘までついて…それに似てるといっても瓜二つじゃない。よく見れば分かる。」 「分かる前に、遺伝子検査をしたと、旦那様にもお伝えしました。しおり様の遺伝子検査です。間違いなく本物です。記憶がはっきりしていない方が、相手にも曖昧になって丁度いいと思いました。しおり様を守るためです、ご協力下さい。」 「しおりの代わりに?命が危ないなら私だって命は危ないんじゃないの?」 「自分の命のご心配ですか?」 「当たり前でしょ?」 「しおり様をあの様にされたのは、あなたなのに?」 心臓が止まるかと、しおは思った。 渡瀬は囁く様に優しい声で話した。 「車を運転されていたのはあなたです。ブレーキ痕はあったそうですから、只の事故でしょうが、あなたは大怪我といえ、1ヶ月もすれば治る。しおり様はいつ目覚めるか、それさえも分からない。しおり様の財産を守られるお手伝いをされても、いいかと思いますが?」 「あなた、最低だね。私としおりがどれだけ仲が良かったか、大好きだったか知りもしないで…確かに事故の記憶はないけど、運転は私なのかもしれないけど……。」 話していて頭痛が酷くなった。 「私がしおりに……危害加えるなんて……しおりの為なら、危険、でも……。」 「しおり様?」 渡瀬が椅子から立ち上がるのが見えた。 「しお…りじゃ、ない……。」 そのまま倒れて、意識を失った。
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