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「ねぇ、私…しおに会いたいと言ったんだけど?」
通路を歩きながら、前を歩く渡瀬に話しかけた。
「勿論、そのつもりですが?」
振り向きもせず、渡瀬は答えた。
通路の奥の扉を開けて停止して、しおを待っていた。
「どうぞ。」
ドアを入ると、豪華ではあるが落ち着いた普通の家の中だった。
「ここ……左側?」
「はい、私も住んでいるところです。こちらへ…渡瀬家の居住スペースです。」
「じゃあ、あっちはもしかして?」
「あちら半分は、侍従長の居住スペースです。家の中が半分に分かれております。
贅沢すぎるほど広いですし、お互いの家に鍵もありますので大きめの二世帯住宅、の様なものですね。」
「へぇ……凄い。」
歩きながらも珍しく見てしまう。
「でも、何でここへ?」
リビングであろう場所に通されて、座る様に促されて大人しく座り聞いた。
「連れて行かなければ一人で行き兼ねませんし、とはいえ私はこの後用事がございます。お連れする事は出来ません。幸い、父が帰宅しておりました。
父に話した所、連れて行って下さるそうです。
父は総て知っておりますのでご安心を。まもなく参ります。」
「誠、遅くなった。旦那様の所に顔を出していた。そちらが?」
「ええ、しおり様です。」
目が合って会釈した。
瞬間に思い出した。
「あっ!」
思わず声を出して、口に手を当てた。
「一度、お会いしてますね?窓越しでしたが可愛らしい方だと思いました。」
優しい声で笑ってしおを見ていた。
ほぼ白髪の方が多いが、少し長めの髪を綺麗にまとめた、おじさま的な人がそこに居た。
「すみません、どなたか分からなくて失礼を…。」
「いいえ、お互い様です。誠の父で渡瀬 信一(しんいち) と申します。
どうかよろしくお願いします。」
手を出されて握手した。
「こちらこそ。えっと、しおりです。」
手を取り頭を下げながら、これが挨拶の正解か、と渡瀬を見た。
その横にいる信一の顔が目に入った。
涙ぐみ、顔を背けてそれを隠した。
「じゃあ、悪いけどお願いします。目を離さないで下さい。」
「ああ、お見舞いだろう?そんなに目くじらを立てるものじゃないよ?」
「お願い!しますね?しおり様もお気を付けて。」
渡瀬 誠の目が、「余計な事をしないで下さい」と言っている様で、歩いて行く後ろ姿に舌を出した。
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