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佐伯家
与えられた部屋に入り、大きさに驚く。
二人で住んでいたワンルームの部屋とは比べものにならない広さで、暫く放心してベッドに座っていた。
窓に近寄り、外を見た。
「庭……広っ…。掃除も手入れも大変そうね…。」
大きな黒い車が来て、離れた所に停車した。
自分が降ろされた玄関前場所と違い、左側の遠い場所に止まったので部屋の窓からよく見えた。
降りて来たのは60歳くらいの男性で、きっちりと高価そうなスーツを着ていて、目が合った気がして慌てて隠れた。
「お祖父さん? 僅かな時間の?元気じゃない?」
もう一度覗くと姿はなかった。
「痛っ……。」
首の下辺りをさすりながら、ゆっくりと部屋の中を歩いた。
ベッド、小さなテーブル、クローゼット。
「ははっ…押入れが私達の部屋と変わんない広さじゃない?洋服もこんな…怖くて着れないわ…。」
クローゼットの中には沢山の洋服が掛けられていた。
高級品なんだと分かると、袖を通す気にはならない。
「ここ…も、押入れ?」
ドアを開ける。
「はぁ?洗面所?お風呂……ホテルなの?」
煌びやかな装飾の洗面台、外国のホテルに来た様な感じだ。
「ここで暮らすの?しお…が、目覚めるまで…。」
不安になった。
早くあのアパートに帰りたくなった。
しお…と二人で楽しく暮らしていたアパートが懐かしかった。
「しお…、一人にしないでよ。」
携帯の写真を見た。
しおりとしお、二人で撮った写真。
アパートでの始まりの1枚。
あの頃がひどく遠くなった気がした。
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