第1章

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 一流のスポーツ選手の口から出る「限界の向こう側」という素敵な言葉。彼らは体一つを使って、とても同じ人とは思えない強靭かつ美しい姿を見せてくれる。その鍛え込まれた美しさの裏にどれほどの努力があるのかは、凡凡人の私には到底想像も及ばない。彼らの限界とはどのくらいの所にあるのだろう。長さで言えばここから太平洋を渡ってアメリカ大陸に行くくらいか。深さでいえば、マリアナ海溝くらいか。高さで言えばエベレストくらいか、いやいや400km上空の宇宙ステーションに行くくらいあるかもしれない。  まあ早い話、私には想像が付かないと言う事だ。しかし私は恐れ多くも、日常でこの「限界の向こう側」という言葉をしょっ中、脳内で使っている。例えば、たった30分か40分ほどのウォーキングの際も、あと少しあの電信柱まで、いやその先の交通標識まで頑張ろう。ああもう夜の12時だ、食器洗いも終わっていない、歯磨きも済ませていない。 「頑張れ、私。限界を超えるのだ。限界の向こう側に行くのだ」とこのような調子である。そうなのです。人によって限界とはこれ程、馬鹿みたいに違うのです。  とにかくスポーツ選手に限らず世の中のスターと言われる人達は、凡人には想像も付かない高見にある限界を日々越えていらっしゃるのは間違いない。まあ私は私の限界を日々超えるしかないのだ。今日の私の限界はというと、それは驚くなかれ玄関のドアを開けて外に出ることだ。50メートル先の交通標識でもなく30メートル先の電信柱でもなく玄関ドアである。  頑張れ私!羽生選手のように、大坂なおみ選手のように、藤井聡太七段のように頑張れ!  玄関のドアを開けるんだ!  今すぐドアを開けて、  限界の向こう側に行け!  玄関の向こう側へ(あっ!)     間違いなく私の体たらくの訳はこういう所にあるのだと思う。
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