巡る春

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そしてまた春になり、 僕と彼はクラスが別れた。 彼の背中はおろか、何もなくなった。 耳に馴染んだイヤフォンをする必要も無いし、席にいる必要もない。 ある意味自由になった。 なのに、今まで関わりも何も無かったはずなのにとても孤独だった。 数ヶ月経ってもそれは変わらず ある日、なぜだか涙が止まらなくて 彼のいない教室にはいられなくて 廊下へ飛び出した。 もう、僕は彼の何者でもない。 もっと彼を見ていたかった。 積極的に声をかけていれば 挨拶だって毎日出来たはず なのに僕は背中を通じてしか伝えようとしなかった。 ちゃんと彼の前に立って彼の目を見て話していればただのクラスメイトではなくもっと何か別の何かに……っ! 「なぁっ!」 急に呼びかけられ息を切らし涙を拭いながら振り返った。 そこには自分と同様肩を上下させる彼がいた。 「やっぱり…。お前何泣いとるん?」 彼は僕だと分かっている上で追いかけてくれたようだった。 「……なんで…っ?」 「お前の後ろにおったんやぞ、間違えるわけないやん」 彼は汗を拭い二カッと笑った。 「ハッ!……アハハっ……!」 なぜか僕は笑ってしまった。 「なんなんそれ、泣いてんのか笑ってんのかどっちや?」 そう言って彼も声をあげて笑った。 嬉しくて、恥ずかしくて、でもその瞬間それまで燻っていた何かが落ち着いた。 溢れた涙も流す意味を変えた。 もうクラスメイトでもないけれど、別の何かに近付いた瞬間だった。
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