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潜入
目の前に聳え立つ、不気味な施設。
入ろうとする者の足を竦ませる威圧感。
周囲には建物らしい建物もなく、民家の明かりすら見えない。
あるとすれば、天を覆いつくすような無数の大木ぐらいだ。
おまけにその枝ときたら、細長くしなっていてまるで幽霊の手みたいだ。
何とも薄気味悪い雰囲気だ。
それに、さっきから誰かに見られている気がする。
慌てて後ろを振り返ってみるがここには俺以外、誰もいない。
正直言ってすぐにでも立ち去りたかった。
だが、ここまで来て何の収穫も得ずに戻るわけにはいかない。
仕方なく俺は扉を少しだけ開けて、体をすべり込ませた。
ここに来た理由はひとつ。
俺が所属する組織からの命令だ。
何でも、自分たちと関わりの深い研究所からの連絡が途絶えたらしい。
そこで実態の調査と所員の救出を命じられたというワケだ。
そんなもの警察かなにかに動いてもらえばいいじゃないかと思うが、残念ながらそうはいかない。
この組織は決して表に出てはならない闇の存在なのだ。
後ろめたさはあるが、仕事をこなしていれば金には困らない。
危険な任務も多いが、それに見合うだけの報酬が期待できる。
当面はここで金を稼ぎ、頃合いを見て足を洗うのが賢いやり方だ。
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