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そうか……。
そういうことだったのか……。
俺は目を閉じてここに至るまでを振り返った。
この鉄扉を通して、あいつは言ったハズだ。
『さようなら』
どうやら俺が思っていたのとは意味がちがっていたらしい。
そのことが分かっていれば――。
いや、分かっていたとして俺には何もできなかった。
俺が一度はそうしたように、あいつらだって死を決心したのだ。
「…………」
彼らに手を合わせておこう。
居場所は分かっている。
思ったとおり、4人はここにいた。
ずらりと並んだカプセルの中。
新たに加わった遺体は横一列に並んでいる。
こう見ると本当に棺として作ったのではないかと思ってしまう。
実際、どのカプセルにも犠牲者が眠っていた。
奥にひとつだけ空きがある。
もし一日早く来ていたら、今ごろは俺もあの中か――。
俺はもう一度、手紙を見た。
症状が出始めたのか、それとも死へに恐怖によるものか。
乱雑な字は震える手を必死に抑えながら書いたものだろう。
どんな気持ちでこれを書いたのだろうか……。
俺は4人の前に跪いて合掌した。
そして彼らのことを忘れないようにと、そっとカプセルを覗きこむ。
もう必要なくなったからだろう。
防護服は着たままだったが、マスクは脱いであった。
額のあたりに黒い斑点が浮かび上がっている。
マスクをしていたのはこれを俺に見せないようにするためだったのかもしれないな。
「どうか安らかに眠ってくれ――」
4人の冥福を祈った俺は本部に報告するため、一旦施設を出ることにした。
離れに停めてある車に無線機が積んである。
ウイルスが漏れ、先発隊が全滅となっては本当に施設を焼き払えと言うかもしれないな。
もしそう命じられたら……それを遂行する勇気は俺にはない。
それをすれば彼らの存在を消してしまうことになる。
焼き払うにしてもせめて犠牲者は丁重に葬ってほしいところだ。
「着いたぞ」
無線機は助手席の下に隠してある。
車に乗り込んだ俺はふと、何気なく見上げた。
ルームミラーに映る顔はげっそりと窶れている。
まるで一気に10年くらい歳をとったような感じだ。
頬はこけていて、目つきも悪い。
さっきまで眠っていたせいもあるだろうが、たぶん精神的な疲労によるものだ。
いつもの癖で前髪をかき上げると、額のあたりに黒い斑点があった。
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