潜入

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建物の中は静寂に包まれていた。 照明はついていないが、幸いにも予備灯が機能していたため、ある程度の視界は確保できた。 入って早々、薬品などをしまっているクローゼットが目に留まった。 奥には、見たこともないような奇妙な形のイスや、ケーブルが何本もついたヘルメット、何に使うのか分からない巨大な箱なんかもある。 一体、何の実験をしていたんだ。 薄暗いはずなのに、なぜか辺りの道具だけははっきりと見えてしまう。 俺はできるだけその辺の物を見ないようにして、ひたすら奥を目指した。 だが、行けども行けども、景色はほとんど変わらない。 鼻を突くような刺激臭に顔をそむけても、妙な気配を感じて振り返ってみても、やはり見える物は何ひとつ変らなかった。 研究所の中に誰もいないのだ。 確かこの任務を引き受けた時、連絡が途絶えたのは5日ほど前だと聞いた。 それなら対応に追われる研究員の1人や2人、いてもおかしくないのではないか。 何か想像もつかないような事件が起きて、みな逃げてしまったのだろうか。 さらに30分ほど歩いてみたが、得られるものは何もなかった。 いくつもの部屋があったが、ほとんどは研究員たちの部屋らしく、同じ作りばかりだった。 せめて日誌でも見つかれば何が起きたか分かるのだが、、残念ながらそれらしいものは見当たらない。 人はいないし、手がかりも全くない。 俺は早くもくじけそうになった。 足元に転がる薬ビンを見ながら自分を呪う。 このまま何の収穫もなしに帰れば、俺の信用はガタ落ちだ。 報酬が得られないどころか降格もあり得る。 ぼんやりと辺りを見回すと、まだ調べていない部屋を見つけた。 成果につながりそうなものなら何でもいい。 すがる思いで扉を開く。 踏み込んだ瞬間、抱く違和感。 他と比べてずいぶん広い。
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