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小屋みたいな狭い部屋に押し込められる。
天井付近にいくつもの噴気孔が見える。
あそこからガスが送り込まれる仕組みになっているらしい。
ってことはここは動物実験もやっているのだろうか。
今となっては調べようがないし、知ったところで意味のないことだ。
頑丈な鉄扉に嵌めこまれたガラス窓の向こうから、俺を見つめる4人。
「そんな目で見るのはやめてくれ」
マスク越しだから表情はよく分からない。
だがこれから死ぬ人間に向ける顔なんてだいたい決まっている。
その口がゆっくり動く。
「 さようなら 」
互いの声は聞こえないが、口唇はそう言っているように見えた。
まあ、それ以外にかける言葉なんてないか。
俺は強がりのつもりで手を軽く振ってやった。
親しい間柄でもないんだ。
別れがそこまで悲しいワケでもないだろう。
壁の向こうから不愉快な音がして、噴気孔から白いガスが流れ込んできた。
あれを吸えばたちまち眠気に襲われてそのまま……か。
まさか自分がこんな死に方をするとは思わなかったな。
せめて最期は親しい者に看取られたかったが――。
こんな仕事を引き受けたのだから仕方がない。
それもこれも金に目がくらんで組織に身を置いた自分が悪いんだ。
ガスは床を舐めるように這い寄ってくる。
4人はまだ扉の前にいた。
心なしか泣いているように見える。
泣きたいのはこっちだよ。
ふと視線を落とすとガスは腰のあたりまで迫っていた。
おいおい、これじゃ眠る前に窒息死するんじゃないのか?
「………………」
どっちでもいいか。
どうせ死ぬんだ。
苦しくなければそれでいい。
それで――。
それで…………。
強烈な睡魔に襲われ、俺は意識を失った。
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