0人が本棚に入れています
本棚に追加
episode.1
「よし、今日のHRは終わりだ。気をつけて帰れよー」
担任のその言葉を合図に、ガヤガヤと騒がしくなる教室。
私はと言うと、誰と話すでもなく、無言で帰る支度をする。
そんな私の前の席で、大きな声で話す女の子達。
「ねぇねぇ!今日カラオケ行かない?私割引券持ってるの!」
「え、まじか!もちろん行くー!」
「莉奈も行くでしょー?」
「ごめーん!今日は彼氏とデートなの♪」
「えー!てか、あんたこの前彼氏と別れたんじゃかったー?」
「まじ!?莉奈ってほんと長続きしないよねぇ…」
「だってぇ、なんか飽きちゃうんだよねぇ~」
(飽きるような相手なら、最初から付き合わなければいいのに…)
ぼんやりと彼女たちの話を聞きながら(聞くと言うよりは、耳に入ってきた、という表現の方がしっくりくるけれど)私はそんなことを考えていた。
「…ただいま」
家の鍵を開け、小さな声で呟く。
その言葉に『おかえり』と返してくれる人は、いない。
でも、もうそんなのには慣れた。
制服からスウェットに着替えて、ベットに横になる。
両親は、私がまだ幼い頃に離婚した。
親権をめぐって、毎日毎日口論になる父と母。
どちらが親権を〝もらうか〟ではな く…
どちらが親権を〝もらわなければならないか〟。
私は幼いながらに、わかっていた。
両親にとって、私は邪魔、なのだということを…。
だから私はこう言ったんだ。
【パパ、ママ!ミキね、アリサちゃんのおうち行きたい!】
無邪気な、ニコニコとした子供らしい笑顔で…。
両親は、内心〝ラッキー〟だと思っただろう。
親権を放棄してしまったら、世間体が悪い。
でも、
〝美希が有紗ちゃんの所へ行きたいと望んだ〟
その事実があれば、誰からも責められることはないのだから。
最初のコメントを投稿しよう!