断章

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 建物が炎に飲み込まれ、遠く離れた場所ですら、髪を焦がすのでは無いかと思うほどの熱風が及んでいた。つい先ほどまでそこに存在していた美しい白壁は、今は見る影も無く、黒に浸食されている。  炎は天を焦がすほどに高く上がり、夜だというのに辺りを明るく照らし、その明かりに照らされるようにして数人の人が周りにいることが見える。彼らはただなすすべも無い様子で、炎に包まれる建物を眺めていた。  その中の一人が突然屋敷に向かって走り出す。その人物の前に、フードを目深にかぶった人物が立ち塞がった。その人物が何かを叫び、大きくかぶりを振った拍子に、フードが脱げ、頭髪が顕わになる。真っ赤な燃えるように赤いその髪の色は、決してその背後で燃えさかる炎に照らされたからでは無かった。生まれ持っての赤なのだ。赤毛の女性は大きく両手を広げ、炎の中へ飛び込もうとしている人物を制止しようとしているのがその動きからでも見て取れた。  二人の影がぶつかり、地面にもつれるように倒れ込む。赤毛の女性が上に乗り、制止することに成功したようだ。  嗚咽にも似た慟哭の声が響き、押さえ込まれた男性の悲しみが伝わってくる。その慟哭はいつまでも止むことは無く、黒い煙と共に空へと昇っていた。
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