一章 消えたペーパーナイフ

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 大通りを一つ外れると、途端に周囲の空気が一変する。喧噪は遠くに消え去り、冷たい視線ばかりが突き刺さってくるのを感じる。  四方を囲む様に建てられている高い建物は、皆に平等に降り注ぐはずの日光を遮り、昼でも暗闇を提供している。その暗闇の中に潜むのは腹を空かせた子供たちだ。その子供たちは俺の一挙手一投足に集中し、隙あらば何かを奪っていこうと虎視眈々と狙っている。  このパノラ商業特区は港町として西に外洋と接し海外との玄関口となり、東にはニュートリア王国、北西にはゲルニア共和国、そして、南東には絶対神ベルンの教えを忠実に守る宗教国家であるグランベルンと接するという、地理的に優位な立地によりこの三国の交通の要衝として交易を行い、大きく成長してきた。と言うのも、ニュートリア王国とゲルニア共和国は数十年にもわたる戦争に明け暮れ、いつしか両国は疲弊していった。もっとも、戦争があれば商人は儲かるのが世の常。このパノラの地は戦争が続けば続くほど大きく、肥え太っていった。
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