4人が本棚に入れています
本棚に追加
だって、あんまりも絶望しました、って顔するんだもん。彼は少し、拗ねたように唇を尖らせた。それが、いつもより随分幼くて、それで。
今まで口にしてこなかった、彼の何よりの本音だとわかったものだから。
「…………ごめん」
「要らないよ、そんなの。だって電車の遅延はミカのせいじゃないし……」
「そうじゃなくて。……ごめん。ミツキ君のこと、信じてなくて……ごめんってこと。私だけだと思ってた。こんなに、ミツキ君のことダイスキなの……」
信じられない。そう思った瞬間、ぽろりと涙が溢れた。
信じられないけれど――信じていたい。今が何よりの現実で、彼の真実であるということを。
「手、握ってくれないかな」
そして。彼はそっと、手を差し出してくるのである。
「隣駅まで、ちょっと距離あるし。歩いてたら、映画終わる時間に間に合わないかもだけど……。歩いて行くなら、電車よりもずっと長くミカと一緒にいられるっしょ。それって、映画以上に価値があると思わない?どうせ電車、いつ動くかもわかんないしさ」
ね?と。笑いかけてくれた彼の笑顔が眩しくて。まるで、それこそ神様か何かのように思えたものだから。
――ねえ、カミサマ。カミサマはもしかして、私のことが嫌いなのかもしれないけど。ミツキ君にはもっと相応しい女の子がいるはずだから諦めろって、そう言いたいのかもしれないけど。
もう、そっちのカミサマが、私をどう思っていても関係ない。
私には私の、私だけの最高の神様がついてくれている。彼がいれば、それだけでどんな存在に嫌われても、前を向いて歩いていける気がするのだから。
「うん。……それもきっと、素敵だよね!」
差し出された手を握って、私も笑い返すのだ。
この手の温もりが、一秒でも長く続きますようにと、そう祈りを捧げながら。
最初のコメントを投稿しよう!