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「夏は暑い。千年前の人間はそれを受け入れ、楽しむ風雅を持っていたものだがな」
小野のすぐ隣から、厳しくも真っ当な意見が差し入れられる。
見るとそこには、小学校中学年ぐらいの可愛らしい少女が立っていた。腕を組んで胸を張っている様子は、どことなく偉そうでもある。
まるで齢人のような口調やあどけなさの欠片もない大人びた表情にも違和感を覚えるが、何よりも目を引くのは髪の色だ。それは、人工の染髪では出せないような美しい紅である。
しかしそれを除けば、小野と少女はごく自然に会話を交わす歳の離れた兄弟のようでもあった。のんびりした印象の兄と、気の強い妹のような。
「そりゃ平安時代の人みたく風雅さはないけどさ、現代人だって色々考えてるんだって」
「例えば?」
「例えば……お手軽に喉の乾きを潤して冷を取る方法とか」
そう言って小野は、近くの自動販売機を指差す。
「何か飲む? 紅牙(くれが)」
「うむ、あれだ。喉がシュウシュウせぬやつ」
紅牙と呼ばれた少女は「悪くない」という顔で、小野の提案を受け入れる。
「炭酸系以外ね、おっけ」
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