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ローマ・ヴァチカノ市国。サン・ペテロ大聖堂。
真夜中の闇をたっぷりと吸い込んだ大理石の床は、太陽の残滓も残してはいない。
陽のあるうちは信者や観光客で賑わうこの場所も、深夜ともなれば人の気配など皆無だ。
半円の天井まで優に数十メートルはある巨大な大聖堂。そこに充溢していたはずの人々の生気は跡形もなく消え去り、今では静謐で濃厚な死が空間を支配している。
豪奢な窓から差し込む月明かりは、まるで死の使いのような冷たい光をたたえていた。 しかしそれは決して忌むべき不吉な変化ではない。死とはひとつの生命の別の顔に過ぎないのだから――そのことをルカはよく知っていた。
(知り過ぎるほどに……)
胸の奥にある、ずっと消えない疼痛。苦い思いが胸に染み広がっていく。
思わずうつむいてしまった拍子に、彼女のクセひとつない金色の髪がさらりと肩から揺れ落ちた。目の冷めるような美少女ではあるが、今は深い苦悩の翳りにのみ彩られている。
重い足を引きずるように、ルカはシスティーナ礼拝堂から廊下を渡り大聖堂入り口へと向かった。やがて月光を微かに孕んだ優しい暗闇のなかにピエタ像が浮かび上がる。
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