プロローグ

4/10
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/17ページ
 ピエタ――愛する息子キリストを抱き、その死を嘆く聖母マリア。  彼女はまるで救いを求めるかのような表情で、静かにその像を見上げていた。 「ルカ・プレチアとは、そなたのことかな」  ふいに背後から名を呼ばれ、ルカはゆっくりと振り返る。  組織の最高機関であるカーディナル(枢機卿)会に席を置く、ヴァン司教だった。  本来ならば、口も聞けぬほど高位の人である。ルカは敬意を示すため素早く膝を折り、頭(こうべ)を垂れる。  ヴァン司教は穏やかに微笑みながら、指先でルカに立ちあがるように指示した。 「驚いたな。数々の悪魔を地獄へ送り返してきた稀代のエクソシストだと聞いていたので、どんな人物かと思っていた。まさか、このような普通の少女だったとは……」  ルカは蒼く透き通る一対の瞳孔をついと上げ、深く温かな笑みをたたえる司教の優しさに戸惑いながらも静かに立ち上がる。  生まれてまもなくイギリスの教会に孤児として引き取られ、ルカはすぐに特殊な才能を見出された。カーディナルから直々にエクソシストとして最前線で戦うよう命を受け、ヴァチカノ市国へ迎い入れられて二年――ルカは今年で十六になる。
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!