0人が本棚に入れています
本棚に追加
「私はまだ、普通の少女のように見えますか」
ルカがぽつりと呟くと辛そうにうつむいた。
「どうかな。もう一度よく、顔を見せてくれ」
穏やかな声に導かれるように顔を上げると、ヴァン司教の見守るような瞳があった。
もし自分に父親がいれば、こんな人だったのだろうかとルカはぼんやりと考える。
「いや、失礼。普通ではないな」
司教は微笑むとこう続けた。
「普通よりもずっと、可憐で心優しい少女に見える」
ヴァン司教の言葉には、ルカへの温かな心遣いに溢れている。
(本当に有難いお言葉……でも……)
その優しさに、今のルカは喜びよりも先に苦しさを感じてしまうのだった。
刹那。
フラッシュバックのようにルカの視界は赤く染められる。
馴染みのある懐かしい瞳がこちらを見ていた。恐怖と驚愕に囚われた眼差しで。その男の胸に打ち込まれたのは、ルカが放った聖銀の銃弾。
ひどく緩慢な時間の中で、男は死という暗黒の影に絡め取られていく。
その姿はすでに人間ではない。彼には邪悪な悪魔が宿っていた。
ルカにはそれが分かっていた。分かっていたのに――。
銃弾に倒れたのは、しかし悪魔ではなく。
奇妙な感覚の中でルカはかつて人間だった『何か』に近づく。
最初のコメントを投稿しよう!