0人が本棚に入れています
本棚に追加
両手を真っ直ぐに広げ、後ろに倒れた彼の身体をルカは見下ろす。
自分が今、正義の制裁を下した相手は確かに悪魔だったはず。それなのに。
それはまるで、自分を裁く黒い十字架のように――。
「……」
ルカ、と自分の名を呼ぶヴァン司教の声が耳元で聞こえる。
倒れこみそうになる自分の腕を、司教が支えてくれていた。緋色の礼服越しにかすかに伝わる温もり。しかしそれに甘えてはいけないのだと、ルカは強く目を閉じる。
居た堪れない、とは今のような心境を言うのだろう。
司教が持つ善なるエネルギーに身を焼かれそうだ。ひょっとして悪魔は、自分自身ではないのか――絶え間なく自嘲の念がこみ上げる。
やっとルカの口からこぼれた声は、痛々しいほどにか細く震えていた。
「すみません。大丈夫です」
「可哀想に。そなたには、抱えきれないほどの感情が溢れている。それが黒い影のようにそなたの道を見えなくしているのだ」
感情? とルカはかすれた声で繰り返す。司教は自分を買いかぶっているのだと思った。人間らしい感情などすでに無くして久しいのだから――。
「ルカ。このピエタ像を見てどう思う?」
最初のコメントを投稿しよう!