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箱庭戦線
限りも果てもあるこの世界で、私達は奪い合う。
望んでいるのは何時だって平穏だが、それを守り続けるには、人間が好戦的過ぎる。
油断した、まさか目を盗まれるとは思わなかった。
取り戻そうにも、盗人の顔が見えないのでは仕方がない。
どうしようもないから、私は光を捨てた。
何よりも気を付けるのは、隣で喋る友の存在だ。友の言葉は酷く陰湿で、じわじわと相手を追い詰める。
背中を預けてはいるが、いつ殺されるのか分からない。
まあ慣れてしまえば、存外心地良く感じるものだ。
友は、他人のコントロールが上手い。
気付いたときには、自分以外の全てを奪われていたなんて事もあり得るだろう。
遠回りだが的確に、ゆっくりだが確実に、相手を追い詰めて行く姿に恐れ以外の感情が逃げ出した。
だから私は嘘を吐く。
自分自身を守る為に、大量の嘘を吐いた。
いつか気付いたのは、守るよりも傷付けた方が楽だと言うこと。
攻撃こそが最大の防御だと、私は武装する。
何も出来ないと自分を騙した鎧を脱ぎ捨てて、真実すらも切り刻む真っ赤な爪を手に入れた。
友の兵器は、効果を表すのに時間が掛かるから、襲われれば直ぐにでも対処出来る。
この真っ赤な爪は、今は同じ爪すらも切り裂ける事を、友は知らない。
光が無くなってから、時間の感覚が狂ってしまった。
長いのか短いのか分からない間、暗闇の中で爪を振るっていた。
ふと、耳を澄ませば聞こえるのは微かな人間の息づかいと、空回りするモーターの音。
隣で友が、息を止めて唾を飲む。
このクソみたいな戦場では、おちおち休んでも居られないらしい。
すまない、友よ。
どうか私の爪から距離を置いて、巻き込まれない場所に居てくれないか。
裏切る準備は出来ているけれど、それをするには君の存在が大きくなりすぎた。
出来ることなら友として、隣に居続けて欲しいと思う程度には。
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