箱庭終戦

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箱庭終戦

 一筋の光が射し込む。  それは美しくも残酷で、彼の片眼は涙を流した。  足元に横たわる二対の化物は、互いを庇い合うように重なっている。  彼はそれ踏みつけて、光に誘われる様に歩き出した。  数多の傷を負った体を、その足で支えて歩く。  周りを見渡せば、多数の死体。  彼はおもむろに、その懐を探る。取り出したのは、今にも消えそうな自由の欠片。  彼の武器だ。  周辺の自由を探すために、彼はその自由を振りかざした。  使いきった自由は消えて無くなった。その代わり、まだ生きている自由が彼の下に集う。     彼の武器は自由だ。  それは他者から奪う自由だ。  フラスコの中の世界で生きる事は、束縛を嫌う彼が戦うには十分な理由だった。  定められた生き方を嫌悪して、それを是とする社会を憎悪したのは必然だ。  ならば、それを壊そうとする事は自然である。  彼は己の自由を盲信する信者だ。  人々は自由を放棄して、社会を構築した。  打ち捨てられた自由の数々はやがて山となって、世界の片隅で聳え立つ。  巨大な山脈となったそれを見た彼の純粋な心が、悲しみに支配されるのは、ある意味当然の事だろう。  誰からも必要とされずに忘れ去られた、存在としての悲しみ。  彼はたった独りで、戦争を始めたのだ。  現実に戻ると彼は妬ましげに、二対の化物に目をやった。  舌打ちを一つ飛ばした後に、化物の場所へと引き返す。  まだ持っていたのか、と目を細めて化物に自由を構えた。  涙の枯れた片眼に映るのは、化物が握る自由。  それは既に壊れかけていて、自由と呼ぶには不似合いな、真っ黒な塊。  化物の怨念にも見える呪い。  彼はそれを拾い上げて、大口を開けて笑う。  人生で初めてとも言えるほど笑い続けた彼は、スッと表情を消した。  光を睨み付けて彼は叫んだ。  死ね。  死ね。  殺してやる。  次はお前だ。  待っていろ、俺は何処にでも現れる。  貴様が弄んだ全ての自由を解放するために。        薄暗い容器に入れられた、小さな世界が終わる。  最期の生命となった彼が光になって天へと昇る。  世界の自由をその背に背負って。
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