7月1週目

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・忘れられた男  話に花が咲き、あれやこれやと盛り上がり、誰もスマホに届いた通知には気が付かなかった。 「いやあ、予定考えたらさらに楽しみになってきた!」  環菜は隣の悠希の肩をパシパシ叩いた。 「いたっ、痛いよ。――そうね、旅行あるあるね」 「牛タン、寿司、ずんだ……」  そうめんをほぼ1人で食べきった清香が、夢見心地な表情でつぶやいている。 「清香、怖いから、1人でぶつぶつ言わないで」 「仕方ない、夏目流のわくわくだから」 と小崎が言った。 「そうなの?」 「そうなの」 「――じゃあ、もう新幹線のチケットも取っていいよね」 と飯田が言った。 「そうね。早割はもう効かない、か」 「いや、まだ行ける……違ったかな? 見てみるよ」 「ああ、早く仙台・松島編にいかないかな」 「来月って言いなさい、来月って」  璃子が環菜の膝をたたいた。 ――すっかり脳内がご当地グルメで満たされていた清香の耳に、スッとふすまの開く音が聞こえた。 「何だ?」 と思わず言う。全員、その声に気づいた。 「すみません、お待たせ……しました」 「あ」  宇野陵、到着。予定の時間を2時間超えていた。 「あ?」  友人たちがいつものように怒りもせず、ぽかんと自分を見ているのに、宇野も戸惑った。 「あ、ってどうしたの?」 「……いや、あんたのこと、忘れてた」 と環菜が言った。 「わ、忘れてた?」 「そうめん食べる?」 と清香。 「そうめん?」 「そうめんはもういいでしょうよ」 と璃子が言った。 「な、何がどうなってるの?」  宇野は中に入り、ふすまを閉めて、そろそろとその場に正座をした。 「つまりね」 と飯田が言った。 「お前がちっとも来ないから、宇野抜きで旅行のプランがどんどん完成していったってわけ」 「もう、終わったの?」  宇野は目をぱちぱちさせた。 「終わった」 と飯田は言った。 「あと、新幹線のチケットは俺が取るから」 「よ、よろしくお願いします」  宇野はそのまま、深々と土下座をした……。 →→NEXT:7月2週目
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