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・帰る前に
体育館の中だけが明るい。
夏は陽が長いとはいえ、夏至はもう過ぎている。夜8時近くともなるとさすがに暗い。
部活動の時間を終え、解散し、誰もいなくなった体育館の中を、清香は1人歩いて回っていた。
今日1日で試合のフォーメーション、メンバー、攻め方などを検証しながらいろいろ試してみた。
それを頭の中でもう1度反すうしながら、清香なりにどうするべきか考えている。
「ただそうなると、カナを前に出したとして……やっぱりあかりは外したくないもんね……」
いったん集中してしまうと清香、全く周りが見えなくなる。
体育館の入り口に、誰かが立った。
「――夏目!」
清香は顔を上げた。顧問兼コーチの男性教員が立っている。
「先生、」
「まだいたの。もう帰りなさい」
「あ、はい……もうすぐ帰ります。あと、ほんと、ちょっとしたら」
「まあ……早く上がれよ。明日も朝練あるんだし。戸締りだけ頼むな」
「わかりました」
清香はうなずいた。――教員が去っていく。
ふと、体育館の掛け時計に目を止める。いつの間に、こんな時間になっていたのか。
「あかり、もう帰ったかな……」
――先週、2年生の後輩同士でごたごたがあった。お互い、部活への意欲や考えに対して不満が噴出した、というよくある話である。
3年生としては、2人ともいい後輩だし、頼りになる戦力であるから、ぜひ協力してほしいところ。そこで、副部長のあかりが間に入り、ここ数日で2人の仲を戻していた。
それで、今日は後輩の1人と一緒に帰ってやりたい、というのであかりとはすぐに別れたのだった。
清香は、そういう人の間に入って面倒を見てやるのが、どうも得意ではない。1人だけの話なら聞けるのだが、言い合いやけんかとなるとそこからどうしていいかわからなくなるのだ。
そういう役割は、あかりのほうがずっとうまくこなせる。
「本当なら、私がやるべきなんだろうけど……」
清香はそうつぶやいて――強く首を振った。まただ、すぐ同じところに行きついてしまう。
いつもいつも、昔からそうだ。どうして、私はこうなんだろう。
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