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あかりはとんとん、と靴のつま先で床を突いた。手でかかとを靴に押し込めるのが面倒なのだ。
「小崎、」
「ん?」
小崎も靴を履きながら言った。
「その……小崎が迷惑でなければでいいんだけど。清香の話……聞いてあげてくれないかな」
小崎は動きを止めた。
「私と小崎は、違う。多分……私じゃ気づいてあげられないこと、小崎になら話せるのかもしれない」
「あいつが俺になら、何でも打ち明けると思ったら、それは間違いだぞ」
と小崎は言った。
「それはわかってるよ。でも、みんな3年も後輩たちも、清香のこと大好きなんだ。清香にたくさん助けてもらったし、教えてもらったし、引っ張ってもらってるし」
あかりはまくしたてるように話す。
「いつも清香が1番に頑張ってるから、私も頑張って来れたの。だから、清香が何か悩んだりしているんなら、黙ってそれを見てるなんて絶対嫌なんだ」
あかりはそう言って――ハッとした。
「ごめん、変なお願いして」
それからへへっと笑う。
「よく考えたら、女バレのことは、小崎には関係ないもんね」
「……」
小崎は先に歩いていってしまった。
「おーい!」
と小崎が外に向かって大声を出した。先に出ていた友人たちが何だどうしたと振り返る。
「俺、忘れ物あったの思い出した。先帰ってて」
「待つよ?」
「いいよ、いいよ。もう遅いし」
「そう? じゃあ、先帰るよ」
「悪い悪い」
小崎はにこにこ友人たちを見送って、また中に戻ってきた。
「――夏目、どこにいるか知ってる?」
靴を脱ぎながら、あかりにそう聞いてきた。
「た、多分体育館だと思うけど……。小崎、」
「別に、関係なくは、ないと思う」
小崎はてきぱきと上履きに履きかえた。
「確かに女バレのことは関係ないかもしれないけど、夏目とはないわけ……じゃない」
「小崎……ありがとう」
「いや。こっちこそ、夏目のこと教えてくれてありがとう」
あかりは首を振った。
「じゃ、お疲れ」
「うん、お疲れ」
あかりは廊下を引き返していく小崎の背中を見送った。
「全く……」
つい、口から言葉がもれた。それからふふっと、笑みまでこぼれてしまった。
――正直、清香がうらやましいよ。
小崎が角を曲がって見えなくなった。
「……ああ、私も早く帰らなきゃ」
外で後輩が待っている。
あかりは急いで外に飛び出したのだった。
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