7月2週目

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 あかりはとんとん、と靴のつま先で床を突いた。手でかかとを靴に押し込めるのが面倒なのだ。 「小崎、」 「ん?」  小崎も靴を履きながら言った。 「その……小崎が迷惑でなければでいいんだけど。清香の話……聞いてあげてくれないかな」  小崎は動きを止めた。 「私と小崎は、違う。多分……私じゃ気づいてあげられないこと、小崎になら話せるのかもしれない」 「あいつが俺になら、何でも打ち明けると思ったら、それは間違いだぞ」 と小崎は言った。 「それはわかってるよ。でも、みんな3年も後輩たちも、清香のこと大好きなんだ。清香にたくさん助けてもらったし、教えてもらったし、引っ張ってもらってるし」  あかりはまくしたてるように話す。 「いつも清香が1番に頑張ってるから、私も頑張って来れたの。だから、清香が何か悩んだりしているんなら、黙ってそれを見てるなんて絶対嫌なんだ」  あかりはそう言って――ハッとした。 「ごめん、変なお願いして」  それからへへっと笑う。 「よく考えたら、女バレのことは、小崎には関係ないもんね」 「……」  小崎は先に歩いていってしまった。 「おーい!」 と小崎が外に向かって大声を出した。先に出ていた友人たちが何だどうしたと振り返る。 「俺、忘れ物あったの思い出した。先帰ってて」 「待つよ?」 「いいよ、いいよ。もう遅いし」 「そう? じゃあ、先帰るよ」 「悪い悪い」  小崎はにこにこ友人たちを見送って、また中に戻ってきた。 「――夏目、どこにいるか知ってる?」  靴を脱ぎながら、あかりにそう聞いてきた。 「た、多分体育館だと思うけど……。小崎、」 「別に、関係なくは、ないと思う」  小崎はてきぱきと上履きに履きかえた。 「確かに女バレのことは関係ないかもしれないけど、夏目とはないわけ……じゃない」 「小崎……ありがとう」 「いや。こっちこそ、夏目のこと教えてくれてありがとう」  あかりは首を振った。 「じゃ、お疲れ」 「うん、お疲れ」  あかりは廊下を引き返していく小崎の背中を見送った。 「全く……」  つい、口から言葉がもれた。それからふふっと、笑みまでこぼれてしまった。 ――正直、清香がうらやましいよ。  小崎が角を曲がって見えなくなった。 「……ああ、私も早く帰らなきゃ」  外で後輩が待っている。  あかりは急いで外に飛び出したのだった。 →→NEXT:言葉、伝えない言葉
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