7月2週目

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・伝える言葉、伝えない言葉  体育館の中だけが明るい。  その中で清香は1人、うろうろ歩きながら考えごとをしている。 「――清香、」  小崎は入り口で呼びかけた。 「うおっ」  全く気付いていなかったのだろう、清香の肩がびくっと動いた。 「帰ろうよ」 と小崎は言った。「もう8時すぎてんぞ」 「何でここに」 「いいから、早く」  小崎は少し強い口調で言った。 「今ここで何かしてても、プラスになることなんてないぞ。帰る、帰る」  清香は何か言おうと口を開いて――やめた。黙って、入り口に置いておいた荷物を取りに行く。  体育館の鍵を閉め、職員室に返す。その間、どちらも話さなかった。 「――ねえ、何で来たの」  玄関を出てようやく、清香がそう言った。 「……あのさ、あんま増山に心配かけんなよ」 と小崎は言った。 「ごめん」  横に並んで歩きながら、清香はチラッと小崎を見た。 「あかり、何か言ってた?」 「清香が何か悩んでるくらいは、ばれてるよ」  清香がうつむく。 「――何か、うまくいってないの? 増山はそんなことないと思うって言ってたけど」 「部活の話してるの?」 「そりゃもちろん」 「……あかりの言う通りだよ」 と清香は言った。「別に大変な状況ってわけじゃない。チームもいい感じに仕上がってきてるし。まあ――2年の中でちょっと問題はあったけど、それは落ち着きそうだし」 「だったら、何が気に食わないの」 「何もないよ」  清香はそう言って、土手にあがる階段へ駆けていった。 「あっ」  小崎もあわててついていく。 「またそうやってすぐどこかへ行く。そうやって――ごまかそうとするじゃん」  清香は土手の上で、足を止めた。 「昨日の晩、泣いてたんじゃないの?」 と小崎は言った。 「何でそう思うの」 「目、はれてる」 「眠れなかったんだよ」 「どっちにしろ、ゆっくり休めてないんじゃん」  小崎は、清香を抜いて歩きだした。清香は後を追って、隣にならんだ。 「何を悩んでんの」 「……私はさ」  清香はゆっくりと話し始めた。 「これでいいのか、わかんない」 「これでって?」 と小崎は言った。「今の部活の状態?」  清香がうなずく。と思ったら、すぐに首を横に振った。 「どっちだよ。部活の話じゃないの?」 「どうなんだろ」 「まあ、言ってみなよ」  小崎は明るく言った。
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