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「先輩はこんなんじゃなかった」
「先輩って、前の部長の坂本先輩のこと?」
清香はうなずいた。
「すごくうまくて、かっこよくてきれいで、優しくて気も使えて。後輩全員、先輩のことが大好きだった」
「で、自分は先輩に到底及んでないって?」
清香がしかめっ面をした。――図星のようである。
「まあ確かに、優しくはないよな」
小崎はしみじみと言い、それから清香に蹴りを食らった……。
「私、先輩みたいに後輩の相談乗れないし、そういうのはあかりに任せっきりだし。細かい仕事も他のみんなにやってもらって、何なら2年生のほうがずっとしっかりしてるし」
確かに、それは間違ってはいないかも、と小崎は思った。
「私、先輩みたいに万能じゃないから、部長になった時、できることを頑張ろうって思った。他のことは、他の部員にも協力してもらおうって。適材適所というわけで」
「うん」
「でも……よく考えたら、それは甘えだったかもしれない」
清香の歩く速度が遅くなっていく。
「自分ができないこと人に押し付けただけ。やる努力も初めからしない。適材適所なんて言い訳で、自分の甘えを隠してただけ」
小崎も、足の動きを遅くした。――どうも、周りの評価と、本人の自己評価に差があるみたいだ。
「って考えだしたらもう、私とんでもなくひどい部長だったんじゃないかって。――先輩が卒業するとき、お願いねって、私に女バレをを託してくれたのに」
「……でも、部活はうまくいってるんだろ?」
「そう……思いたい」
「じゃあ、今から変える?」
小崎は清香を見た。
「全部、清香ががんばってやって、坂本先輩みたいなキャプテン目指す?」
「……」
清香の足が止まった。
「俺は、今のままがいいと思うけどね」
小崎も、足を止めて、清香の方を振り返った。
「それって、清香の個人的な願望じゃん。俺たちは部長だよ。最終的な目的は、部を強くしたり、楽しいものにすることでしょ? それができるんなら、別にキャプテンが万能である必要はないと思うけど」
「……うん」
「清香さ、何というか……憧れや理想が強すぎない?」
「ん?」
清香は首をひねった。
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