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「ある人に憧れたり、この人がいいって思ったら、意地でもその人みたいになろうとするところ」
「そうかな」
本人はあまり自覚していないようである。
「清香は、自分が思っているよりずっと、ずっと……」
小崎は清香の横に近寄った。
どの言葉を口にするべきか、ぐるぐると思い悩む。
「ずっと、周りのみんなは清香のこと、好きだと思うよ」
「そんなこと、」
「俺は増山からはっきりそう聞いた」
「でも、」
「考えてみなよ」
小崎は清香をさえぎって言った。
「本当に迷惑がられてるだけのキャプテンに、みんなついていくか? それで本当にいい部活になるのか?」
「……」
「清香だからみんなついてくるんだろ」
と小崎は言った。「清香だから細かい仕事も引き受けてくれるし、足りないところは補ってくれる。なのに、それを無視して自分1人で何とかするべきじゃないかなんて考えるのは、他のみんなに対して、失礼だと思う」
清香はうつむいた。――肩が震える。
「あ……でも、気持ちはわかるよ」
小崎は急いで言った。「その、やっぱり部長は……いろいろ考えちゃうよな」
「宏斗は……ちゃんとできてるじゃん」
「そう見える?」
「……見える」
「だったら、清香も周りからはちゃんとできてるように見えてるんじゃない?」
清香は目を伏せたままだ。
「だって、俺だって自分のこと嫌になったり、自信なくしたりすることあるんだ。悩みだってあるさ。でも、清香にはそうは見えてなかったってことだろ?」
「……」
――今のは、ちょっと清香には響かなかったようだ。
小崎は短い髪をくるくるいじって、考えた。
「きっと、俺たちが先輩のこと見てたように、後輩たちも俺たちのことよく見てるよ。いいところも悪いところも。でも、それでも俺たちのこと先輩だって思ってくれてるんだよ。だから、うまくやれてるんだ」
清香が、小さくうなずくのがわかった。
「今のままでいいと思う。無理に変わる必要なんてないよ。清香は――清香のままでいてほしい。俺もそう思ってる」
清香から言葉は出てこない。視線は下を向いたままだ。――何となく、間が持たない気がした。
小崎の右腕が上がって、清香の頭の上に伸びた。
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