33人が本棚に入れています
本棚に追加
「……」
しかし触れる直前、手は止まってしまった。指が中途半端に空を握る。そのまま降りて、今度は清香の肩のそばで止まる。
「……、」
これもだめだった。――まだ、できなかった。
「……清香、」
結局小崎の右手は、握手となって清香の前に差し出された。
「俺たち、頑張ろう」
清香が顔を上げた。
「大丈夫、俺も同じだ」
「宏斗、」
小崎がへへっと笑った。暗がりの笑顔は、何故だか心をなでるようにして、落ち着きを与えてくれた。
「……うん、頑張る」
清香はそう答えて、差し出された手を握った。――大きくて少し乾いた、男子の手だった。
「宏斗……ありがとう」
「いえいえ」
小崎も、手を握り返した。「やっぱり清香からお礼言われるの、変な感じ」
「どういう意味だ、それは」
清香は渾身の力を右手にこめた。
「痛い痛い、大事な手だぞ、おい……」
小崎は急いで手を振りほどこうとしたが、今度は清香がなかなか離してくれなくなってしまった……。
「――さて、少しはすっきりしたんなら帰ろうよ」
小崎は痛む右手をひらひら振りながら言った。
「うん、帰る」
清香は目をこすって言った。
「帰ったら冷やせよ。そろそろばれるぞ」
「ばれるって?」
「みんなに、清香が夜な夜な泣いて――」
次の瞬間、小崎の背中を激痛が走った。
「だからさ……体は大事にしようっての……」
「励ましてくれてんだか、バカにしてんのか、どっちなの」
清香はイライラして言った。
「心の底から励ましてんだよ、当たり前だろ?」
「どうだか」
清香は横目で小崎を見た。
「ほら、帰ろうよ」
2人は土手を歩き始めた。
「ねえ、」
と清香は言った。「宏斗の悩みって何なの?」
最初のコメントを投稿しよう!