7月3週目

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・そして 「――じゃあ、私はこれで」 と環菜は言った。駅の改札前である。 「今日はありがとうね」  クニモトがにこにこと言った。 「こちらこそ」 「気をつけて帰ってね」 「あいよ」  環菜はクニモトに背を向けようとして――止めた。 「あのさ、」 「どうした?」 「またもし、話を聞きたいって言ったら、会ってくれる?」  クニモトは1つ、息を吸い込んだ。 「……いいよ」  はっきりと、そう言った。 「そしたら、またデートだね」  すぐにニヤニヤ笑う。 「いや、まあ、物は言いよう……」  環菜はごにょごにょ言った。 「僕も今日は環菜ちゃんと会えてよかったから。だから、また会おうね」 「そう……そうね」  環菜はこくっと、うなずいた。 「じゃあ、また」 「うん、バイバイ」  クニモトは小さく手を振った。  環菜は改札を抜けて、ホームへ向かった。  すぐに、頭の中が思考でいっぱいになる。 ・体は自分に都合よくコントロールできるけど、心はコントロールできない。  今日、クニモトと話して知ることができたのは、これと、 ・ノブモトやクニモトのような存在が生まれたのは、時間の概念がはっきり人に出てきた、ここ100年くらいのこと。  この2点であった。  彼らは人間の考えや、思考の上にしか成り立たないってことなのか?  神様でも、悩んだり、苦しんだりするのかな。  環菜は階段を上がりながら考えた。  確かに、完璧な感じがしない。良くも悪くも、人間らしさがある気がする。  ホームに立つと、風が吹きこんできた。  何より、自分たちの話をしている時の、クニモトのどこか寂し気な表情。それが1番心に引っかかっていた。 「クニモトも、あんな顔するんだな……」  どうも、環菜が思っているよりずっと、彼らには彼らの心情があるような気がする。 →→NEXT:7月4週目
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