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・何でもない誕生日
――7月23日。
環菜は自宅のデジタル時計の日にちに目を止めた。
「私……28歳になったのか」
とつぶやいた。
「ん? 今は18歳というべきか?」
まあとにかく、今日は誕生日である。
夏休み中だから学校はないし、璃子も清香も部活。悠希は別の用事があるとかで、誰とも会う予定がなかった。
「去年も確かこんな感じ……」
せっかくなので、その日1日どうやって過ごそうか考えておこうかとも思ったが、特に何も思いつかないまま今日を迎えてしまった。
環菜はカーテンを開けて、窓から外をのぞいた。快晴。セミの鳴いている声がする。間違いない。絶対暑い。
「暑いの嫌だしなあ……」
あまりどこかへ出かける気もしない。
「ああ……久しぶりにドライブ行きたいな」
18歳になってから1度も行っていない。当たり前だ。まだ免許が有効でない。
「いいや! 今日はのんびり、だらだら過ごそう!」
環菜は伸びをした。――要はいつも通り過ごそうというわけである。
「まあ、アイスくらいは買いにいってもいいね」
サンダルを引っかけ、近所のスーパーに買い物に行く。
アイスを買いに行くと言いつつ、帰宅してみれば、他にお菓子やケーキ類なんかも袋に入っていたのは、誕生日を口実にしたいい例だ。
「今日くらい、今日くらい」
環菜はニヤニヤしながらアイスを食べ始めた。スマホをのぞいてみると、友人たちからお祝いのメッセージが入っている。
「あら、みんなちゃんと覚えててくれてる」
ふと、璃子のメッセージに目を止めた。
――今日は時間とれなくてごめん! 26日空いてる?
「26日?」
その日なら休みということなのだろうか。
「ふふっ」
環菜は思わず1人で笑ってしまった。
さすがに30近くになると、歳を取ったこと自体を祝われるのは気が引けてくるが、それをきっかけに友人が楽しい時間を考えてくれていることは、いくつになっても嬉しいものだ。
そうそう、だから清香の時も、あんなことをしたのであって。
「璃子か……。何を考えてくれてるんだろ」
と環菜はつぶやいた。
ちょっと、想像がつかない。いつも通りの飲み会かしら。
あれやこれやと想像して――環菜は璃子に返事をしていないことに気がついた。
返信しないことには、何も進まない。
「――丸一日空いてるよ、っと……」
璃子にそう返して、ちょいとトイレでも行くかと、スマホを置いたと同時に、ぶうっとなった。
「え? まさか璃子?」
そのまさかである。
「早いな。こんなに早く返してくること今までなかったのに。さては、待ち構えてたな。休憩中だったのかしら」
相変わらずの独り言とともに、もう1度スマホを見る。
――じゃあ、当日は朝5時起きでよろしく。6時には迎えに行くから。
環菜は瞬きをした。
「5時起き?」
ますます何をするのかわからなくなった環菜であった。
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