7月4週目

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「大人に戻った後の楽しみが1つ増えたね」  環菜が大きく伸びをした。 「確かに。よく考えたら、大人に戻ったらただ仕事するだけの生活だからなあ」  璃子が遠い目で言う。 「ああ……気づいてしまった」 「まあ、楽しみ作って何とか頑張るしかないだろ」 と飯田が言った。 「それはいつだって変わらないでしょ」 と環菜が言った。 「大人だって学生だって、子供だって、その人にとってみれば、普段はいろいろ頑張らなきゃいけないことばかりじゃない」 「普段?」 「うん。私たちにとってみれば学生なんて遊んだり勉強したりして、んで仕事はしなくていいもんだから、羨ましく見えることもあるかもしれないけどさ。それは私たちからの視点であって、本人たちは勉強したり学生生活を送ることそのものが、頑張らなきゃいけないことなんだよ」 「ほう」 「もちろん、それが楽しくて仕方ないって人もいるだろうけどね」 「それも、大人も子供も関係ないと」 「そうそう」  環菜はうなずいた。 「つまり、学生だから楽とか、社会人だから辛いとか、他の誰かが勝手に決めつけられることじゃないってこと」 「ふうん」 と返して、璃子は少し考えた。 「さては環菜、あんたこの3か月間で、すでに授業やら宿題やらがめんどくさくなってるな?」 「うっ……」  環菜の顔に縦線が走った。 「せっかくいい感じの話してたのに、そんなオチにもっていかないでくれるかな……」 「ほら、あんたと私の間柄だから」 「ここでそれ、使いますか」 「さっきのお返しです」  環菜は長くため息をついた……。 ――ふわあっと風が吹いた。 「さてと、この後――どうするか」 と飯田が言った。間にあくびが混じっている。 「そうだねえ」  環菜は腕組みをして考えた。――出たのは言葉ではなくあくびだった。 「何も出てきてないじゃん」 と璃子が指摘して――大あくびをかました。 「おい、ふあ……俺のところに戻ってきたぞ」 と飯田。 「初めて見た、あくびが1周回って戻ってくるなんて」 「少し、車の中で寝る?」 と環菜が提案した。 「それでもいいかも」 と璃子。「何か気持ちよくなってきちゃった」 「じゃあ、戻ろう」 「戻ろう、戻ろう」  3人はぞろぞろと車に戻っていった。 ――結局この後昼近くまで眠りこけ、真夏の暑い中にほうとうをのんびり食べた3名は、無事渋滞に引っかかることもなく早めに帰ることができたのだった。(上野原IC~小仏トンネル付近も渋滞しなかった!)  そして、夜に環菜宅に再集合したことは、言うまでもない。 →→NEXT:ちょっとひと休み~登場人物紹介~
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