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話を巻き戻しその7 試験中
「では、まずお名前をどうぞ。」
私を担当したのは、やんちゃそうなくせ毛に日焼けした、スーツに合わないピアスや銀のネックレス姿の男の人だった。
ネームプレートには<面接官 ナイトメアハンター専門心理学班班長及び責任者 天童>の文字。
「えっと、長谷蓮純と申します。名字は『はせ』と書いてながたにです。レジュは、蓮に純粋の純です。」
「長谷蓮純さんですね。以前もしくは現在、何の職に就いていましたか?」
「普通の会社員でした。小さな食品メーカーに勤めていたんですが、ちょっと個人的にトラブルがあって退職しようとしていて、そこでこの試験の話を聞いたんです。」
「この試験がナイトメアハンターになるための試験だと言う事は?」
「知っています。でも、ナイトメアハンターについては初めて知りました。今までは悪夢を退治するとしか聞いていなかったので。」
「つまり、ナイトメアハンター=悪夢を退治する職業の人間ということは知っているわけですね?」
「はい、そうです。」
「わかりました。続いて、趣味について教えてください。」
「趣味……うーん、工作、みたいな感じでしょうか……。」
「工作?」
面接官が興味を示す素振りを見せた。
「はい、ペットボトルのキャップとか空き缶とか、いらないものやゴミなんかを使って何か日常生活に役立つものがつくれないかなーと、飾りだとか置物みたいなものを作っていました。専用の鉛筆立て、とか。キーホルダーをしまうちょっとした箱とか。」
「成程、成程!それは興味深いですね。それでは、幼少期の夢は?」
「え、幼少期?」
何だろう?
「えーっと、確か、何だったかな……。」
「恥ずかしいことでもいいんですよ、幼少期は誰だって今思い出せば恥ずかしい夢を持っているものですし。」
「……ちょっとありえないんですが。」
「何でもどうぞ。」
「そのー……サスペンスドラマをつくりたいと思ってました。」
「……は?」
面接官が唖然とする。
隣に座っていた人がブッと吹き出す。
「当時、私、サスペンスドラマを親が見ていたので一緒に見ようとしたら、子供が見るものじゃないって注意されて。だからサスペンスドラマっていうのは、成熟した大人な人だけが見れるものだと。それで、サスペンスドラマを見る人は格好いいんだって思い込んで、いつか見るだけじゃなく自分でつくってみたいなと、恥ずかしいことを……考えていました……。」
「えー……その夢は、いつ諦めたんですか?」
「確か小学三年生くらいの時です。サスペンスドラマの意味がわかって、ちょっと過去の自分にドン引きして、それから新しい夢を探し始めたんですがなかなか見つからなくて。小学六年生の時に卒業文集を書くことになって初めて本気で考えるようになったんです。その時は、今でもそうなんですけど神様とか魔法とかをよく空想してる子供だったので、心霊関係の仕事に就きたいなって。まあ結果的には食品メーカーの平凡会社員におさまりましたけどね。」
「ふむ。それでは、あなたのこの業界に対する第一印象を教えてください。」
「私はファンタジーとかオカルトとか大好きだったので、いいな、楽しそうだし是非やってみたいなって。でもこの試験会場を見たら、かなり大きい業界なんだなと思いました。審査員の方もたくさんいらっしゃいますし、会場も広いですし。」
「ふむふむ、成程、成程。」
そんな感じで面接はどんどん進んでいった。
「今までにどんな悪夢を見ましたか?」「悪夢を退治すると聞いて、すぐに思い浮かぶメリットやデメリットは何ですか?」などの明らかに必要とわかる質問以外に、悪夢退治と言う突飛な職業からかかなり珍しい質問も多々あったが、結局これといって問題もないまま私の面接は終了した。
はあ~……。
なんか疲れたなあ。
食品メーカーで面接した時には、こんなに疲れなかったはずだけど。
背もたれに思いっきり寄りかかって休憩していると、どうやらすべての面接が終ったらしく硲さんが声を張り上げた。
「はぁーい、これにて面接は終了となりますー!続いて実技試験に移ります。試験は別室で行いますので、お名前を呼ばれた方は廊下に出てくださーい!すぐ近くに『待合室』のプレートがかかった部屋がありますので中でお待ちください。順番が回ってきましたら、審査員が直接呼びに来ます。審査員の後についてそれぞれの部屋で試験を行い、終わり次第こちらに戻ってきてください。帰り道がわからなくなってしまった方は、審査員に申し付ければこの階の見取り図をお配りしまーす。以上ですが何か質問はありますか?はい、そこの超かわいい服を着た美人なお姉さん!」
「い、いやだぁあはは……あっ、じゃなくて。えーっと、待合室って近くにあるって言われましたけど、すぐわかる場所ですか?」
「はい!廊下を曲がったりもしませんしプレートかかってるんで、すぐわかりますよ。他には?はいっ、そこの目立たない色の服なのに顔が整ってるからすごく華やかに見えるイケメンのお兄さん、どーぞ!」
「あの、それぞれの部屋ってことは、一人一人試験をする部屋が違うってことですか?」
「おー!いい質問ですねー。はい、そうですよ。一人一人部屋は違います。審査員がご案内しますので間違えることはないと思いますけど。あ、難易度は全室同じですから、俺が落ちてあいつが受かったのはあいつが受けた部屋が簡単だったからだ、みたいな妬みはしないでください。恨みっこなしですからねー。ちなみに試験のやり方については、直接説明をさせていただきますのでご安心くださいね。他にはないですか?」
そこで硲さんは一旦会場を見回した。
「はいっ、ではこれ以上は無いようですので試験に移らせていただきます。ただいまから放送が入りますが、名前は列や来た順番に関係なく呼ばれていきますので、聞き逃さないように注意しておいてください。放送は繰り返しません。ただしあまりにいらっしゃるのが遅い場合は一番最後に後回しにされちゃいますよー。では、放送スタート。」
会場が静かになったのを確認してから硲さんが言うと、あちこちにとりつけられたスピーカーから数人の名前が一度に呼ばれた。
私の名前は呼ばれなかった。
何人かの人がパラパラと立ち上がって廊下に行くけど、席を見るに、本当に座った席とは関係なく呼ばれているようだ。
その人たちが出て行って数分後、また放送が入って何人かの人が出て行く。
こんどはたっぷり三十分以上の間があり、放送が入った。
私は心の中で、自分が何番目に呼ばれるか放送の回数を数える。
結局呼ばれたのは、十二回目の放送だった。
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