告白~虐待の連鎖を止めるための決意~

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告白~虐待の連鎖を止めるための決意~

「巷じゃあ、伝説のヤクザって呼ばれてるが、ただ、口喧しいだけの昭和のヤクザだよ」 苦笑いを浮かべながら、二十年前まで、播本と呼ばれていたこと。跡目相続に端を発した内部抗争が勃発し、茨木さんを庇って舎弟だった颯人さんのお父さんが命を落としたことを話してくれた。 ヤクザを辞め、第一線から姿を消したのは、同時まだ小学生だった颯人さんと、彼のお母さんの命を守るため、そして身内同士の抗争に終止符をうつために自ら身をひいたのだった。 「離婚した前の妻との間に子供が二人いてな。長男は昇龍会に残り、組長の一人娘と結婚し、いまは若頭だ。長女は・・・」 そこで茨木さんは一旦言葉を止め、僕の方を向いた。慈しむような優しい眼差しで見詰められ、目が合うとにっこりと微笑み返してくれた。 「未知は母親にそっくりだな。我慢強いところや、少し気が強いところが・・・」 茨木さんのその一言ではじめて気が付いた。彼が母さんのお父さんだということ。赤の他人じゃなくて、血の繋がっているお祖父ちゃんだということを。 今更だけど、ようやく。 だからこの三年、親身になって僕や一太の面倒をみてくれていたんだ。 目蓋の裏が熱くなるのをひしひしと感じた。泣いてる場合じゃないのに。しっかりしないといけないのに。 「母親に引き取られた娘は、新しい父親になった男に性的虐待を受けて、14才の時妊娠したんだ。真実を闇に葬るため、母親に堕胎させられそうになり兄に助けを求めて家を飛び出したんだ。未婚の母として、水商売で働きながら子供を育てた。そんな時だ、未知のお父さんに出会ったのは。 性的虐待を受けたトラウマはなかなか根が深くてな、虐待の・・・負の連鎖を繰り返した。娘から性的虐待を受けた尊さんが、未知に同じことを・・・同じ過ちはどこかで止めなきゃならねぇんだよ。こんな悲しいことを2度と繰り返さないように。尊さんよ、言ってる意味分かるだろ?颯人も分かるだろ?」 二人とも頭を深く垂れていた。 「3年前、未知の母さんから連絡が来たとき、同じことを息子にしてしまったと電話口で泣いていたよ。ほんとは、自分の手元で産んで欲しかったんだと思う。それが出来ないから、オレに託したんだ。卯月とはちょっとした知り合いでな。本人は気付いていないが、彼だったら未知や一太を幸せにしてくれる。だから今度こそ幸せになるんだぞ。おっと、噂をすれば」 茨木さんがくすっと声に出して笑った。
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